デッサンを習う訳
絵を描こうとしてはじめにやることは対象の観察ですね。絵では対象を観察すると言っても対象が何かを観察するのではなく、対象を見ている視覚を観察して絵にします。ここが結構、勘違いをし易いのですが、対象が何かを観察する、例えば本であるとかギターであるとか楽譜であるとかを観察するのではなく、対象の見える位置関係や色やテクスチュア、その大小関係などを観察するのが視覚の観察です。観察しているのは対象の概念的な形ではなく、対象の見え方なのです。それが一般にいうところの絵です。それに対し図であれば対象の概念を観察します。間取り図とか設計図といった対象の概念的形を観察するのです。子供の絵とかキュビズムの絵での対象の観察は視覚ではなく、対象の概念的な図としての観察です。本の特徴、ギターの特徴、楽譜の特徴を見つけてきて、画面のフォルムの中に散在させるとその部屋なり、そのテーブル上なりの情景がうかんできます。マンションの間取り図などを眺めながら、そこでの生活を想像するようなものです。絵画的な表現と図示的な表現とでは異なりますので、描かれているものがはっきり何であるかわかっていても上手いと下手とが生じます。
絵画の訓練で必要なのが視覚の観察です。子供の絵やキュビズムはこれを省きましたが、絵画的な描写の基礎になりますのでおろそかにはできません。改めて視覚の観察などは絵画以外では使いませんので、ある種、特別な感覚であるかもしれません。手前は大きく見えて離れると幾分小さく見えるとか、目の高さに水平線があるとか、は普段意識することはないでしょう。視覚を観察しなくても対象が本やりんごであることを間違えることはありませんので、視覚の観察は日常的には必要のないことです。ところが絵画を作る上では必要なこととなります。絵という形式概念の無い子供や障害者の絵に視覚の観察がないのは、視覚の観察という行為が後天的技能であることを意味しています。西洋絵画史でルネッサンス以降の近代の画法の大きな変化は視覚に気づいたことから始まっています。眼は事物の概念を観察するだけでは足りずに、視覚という自己意識を観察し始めます。この絵画的な方法が絵を一流の表現分野としました。そこで、絵を描くとはこういうことだというのはどこかで見覚えがあるか教わるかしなければ知らないはずですが、その仕掛けを知らなくても、視覚を忠実に描いた絵からは絵画形式を知る人も知らない人も瞬時に対象を理解します。子供でも、未開人でも視覚表現からはすぐに対象を理解するのです。表現手段として視覚の描写は有効なのです。
絵を描くために見るのは対象そのものではなく対象が映り込んでいる画面平面です。カメラでフィルム面すなわち画面平面に映し出される画像を見ているのと同じで、絵では窓ガラスのように二次元平面に想定された画面平面を観察して描いているのです。絵では視覚を観察していることに無意識にでも気づいている人と気づいていない人とでは大きく異なります。視覚に気づいていなければ、眼は直接対象を把握しようとするからです。対象の把握は実物の大きさや色が判断できれば十分なのですが、それをそのまま描くと図の羅列になります。一般には対象の特徴を列挙する図が対象の認識のしかたです。絵画は特殊なのです。特殊なので絵画的に描くには、どこからか文化の中で絵画を習得し学習する必要があるのです。
絵画は虚構ですが、デッサンはリアルな視覚の再現です。
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