デッサンの捉え方 大倉山音楽美術センター

query_builder 2024/11/27
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図と絵の違いを考えて見ましょう。絵で描くのはモノの概念ではなく、モノの見え方、視覚的な位置の関係です。本の上にりんごとバナナがのっていたとします。本は四角で縦長の長方形、絵が苦手な人には本はそのように見えます。本という概念に一致した形です。ひし形の本や台形の本があったのでは読みにくくて本とは言えません。概念としてはりんごは赤くて丸いのです。バナナは長くて曲がっていて黄色いのです。画用紙に四角い本と丸く赤いりんご長くて曲がったバナナが描かれます。どのように乗っているのか、何処から見ているのかは省いてしまいます。それは図としては間違っていないのです。言葉でいえばそのとおりです。位置関係はすぐに動くものですから本とりんごの重要な概念ではありませんと判断します。ところが実際は本はテーブルの上に置かれ、斜めから見ているので視覚としては台形のように歪んだ四角形に見えています。赤いとしたりんごは実は黄色の塊の上に薄っすら赤い模様があるのです。脇に置かれたバナナはりんごより短く見えます。視覚は概念とは違うのです。絵が下手な人、苦手な人は、絵の中に概念を求めます。絵が下手だという人と描けるという人の違いはモノの捉え方の違いです。字が書ければ絵を描く上でおよそ不器用などということはありません。絵が描けない理由はモノを言葉と同じように概念で捉えているからです。

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人の視覚は対象を認識するために発達してきました。対象は行動の目的や障害として意識されるものです。目的外の対象はほとんど視覚からは意識されません。視力は対象を認識するために発達したのですから、対象を認識してしまえばそれ以上の視力による認識の必要はない訳です。眼の前に現れた動物や虫が危険なのか役立つのか、植物が食べられるのか食べられないのか。それらを判断する機能として視覚が発達してきたので、対象の認識に必要な形態の特徴を見分けたり、色合いで判断したり、近づく速度を判断したりを動きの中でも視覚情報として受けとります。鳶が上空百メートルから地上のネズミの動きを見つけるように特別に発達した神経と対象の概念との連携が視覚には成立しています。視覚の特殊性は人間の視覚も同じで対象の微細な変化変化を読み取りその意味を察知します。赤ん坊が母親の口元の変化に素早く反応するようにです。しかし、眼に写っている純粋な視野を意識するような視覚的な体験は大草原や海にでも行かなければ経験しないでしょう。特定の対象の特徴から離れて、視覚そのものを知覚するような意識は起こらないでしょう。日常の視覚は対象の特徴を瞬時に判断し対象を認識して次の行動に進めます。様々な対象の認識が次々とあるので対象の段階ですでに取捨選択して、見るに値する対象を特定しているので視覚に現れる対象間の空間の形などは当然意識されません。まして絵画で描かれる空間の形など視覚に現れても知覚とはならないでしょう。絵を描く場合の視覚とは日常の眼の使い方からすれば異常な非日常的な視覚の記述です。

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原始の洞窟絵画などを見ますと対象のシンボリックなアイコンが文字の様に並べられ、事柄を物語っています。事柄を図で示すのは児童画などにも共通です。「視覚の描写」という特別な意識を習得しなければ、視覚の役割はアイコンと物語に集中します。視覚が第一に認めるのは大小関係や明暗ではなく、対象の特徴の確定的な認識です。動物であるのか、人間であるのか。それぞれのアイコンが見つかれば自分の知っている対象を呼び起こし図の物語を完成します。このような絵画のあり方は単純に稚拙なのではなく、「視覚の描写」としての絵画とは別の地平にある絵画なのだと気づいたのは20世紀になってからかもしれません。文字や絵や記号の視覚的な機能に図としてのアイコンが加わった中世的絵画空間を再発見したのでしょう。西欧絵画の伝統はルネッサンスから19世紀まで「視覚の描写」として発展し、イコンの様にシンボリックな表現を前近代的な稚拙なものとしていました。近代の絵画では透視図法や陰影法のもとで対象を観察するのが絵画の基本的な技術でした。これは大変緻密で科学的論理的な方法論です。しかし、これは生来人間に備わった対象に対する感覚ではありません。言語や文字の様に文化的、後
天的に人間に付与された文化による能力です。文化ですから自然なままでは発生しません。言語はその言語環境で生活するか、別に学習するかでなければ習得できません。同じように文化である視覚的描写による上手い絵も同じことになります。

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デッサンを習う理由はその文化を見様見真似で手探りで習得するよりも、経験を踏まえて指導してくれるコーチにつき直接習得するほうが早くて確かだからです。デッサンは絵の捉え方なので言葉と同じように年齢の問題ではありません。視覚を捉えるという文化のあり方です。


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