横浜 デッサン教室 / ポロック談義

query_builder 2025/10/18
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モダンアートに興味はあるけれど

「モダンアートに興味があるけれど、どうしてポロックの絵が良いのかわからない。どう理解すれば良いのですか」、という美術ファンに多く出会います。ポロックの絵に一般の絵画を期待した人の当然の反応です。その逆で、素敵なイラストやファッションのセンスと同じように時代感覚をポロックの絵に直感的に感じた人もいます。漠然と時代の傾向を感じ、時代に同調する言い難い感動を感じたのでしょう。それはなにもない空間が最も美しいというミニマリストの美意識です。印象派の心地よい色彩やそよ風のような空気感から美術に興味を持った人たちはポロックの高評価を聞いて現代美術から取り残されたように感じています。現代絵画は印象派の絵画が美しいと感じる美意識機とは別の意識
です。ポロックの作品に直感で理解できる絵画を期待した人は美術ファンを自認していたのを疑い、理解しがたい状況に立たされます。ポロックの重要さは感覚的な鑑賞以外のところにあります。ポロックが画期的だったのはその画面の斬新さであるよりも絵画の概念をヒックリ返した斬新さにあります。

造形感覚が良いと

ポロックを考える前に、抽象絵画について考えてみましょう。抽象絵画を前にただきれい、新鮮だと言った印象で十分鑑賞できた理解できたと思っている人が多いのですが、それは絵画をただデザインとしてだけ見ているのです。カーテンや絨毯のように色あいの好みや形の面白さや手の込んだ細工とか部屋においたときのインテリアなどとして鑑賞しています。それでいい、それで十分だと思っている人が殆どかもしれません。「あの赤の位置が良いね」とか「あの少しの黒が利いてるね」といった書や生け花を鑑賞するように造形を味わう習慣が我が国にはあります。日本の美術の近代化はそうやって乗り切ってきたのだと思います。どうにかこうにか近代美術に似たものを提示してきました。日本の現代美術でも言えることかもしれません。直感的に造形を理解する、デザインを理解する能力が高いだけに背後にある観念的な骨格には関心が薄いのです。

ポロックの絵画とは

しかし、抽象絵画は改革という別の意思のもとに始まった観念的で政治的な展開です。抽象絵画は体制的であった具象絵画に対して対立項として発案された概念です。するとそれまでの絵画とはなにか、本質的な「絵画」とはなにかと言う視点が何処かにあるはずです。具象絵画とは? 疑問が抽象絵画に向かえば、その前の姿である具象絵画の「絵画」とはとの問は遡及して、総合的に「絵画の本質」とはとなります。こう言う問いにたどり着くと観念的な議論の場が作品の場でも必要になります。観念的な絵画論を踏まえ、抽象絵画の成立を是認して、初めてポロックの作品の前に立てるのです。それは丁度、、数学の歴史の中でゼロの意味を知らなかった時代とゼロの概念がインドからもたらされた後の発展と同様かもしれません。観念的な思考の人々にとって、それを知ることは絵画に画期的な発展をもたらすものと考えたのでしょう。数学でのゼロの発見が画期的な数学の発展をもたらしたようにです。即ち、ポロックがしたことはゼロの絵画を作ることでした。そのためには前提として、「絵画とはなにか」という大問題があります。完全に絵画でない絵画を創ることは大絵画を創るのに匹敵する絵画の大問題であると考えたのでしょう。それは「絵画とはなにか」に答えるのと同等の意味をもつものと考えたからです。

抽象絵画

では、抽象絵画とは何でしょう。なにが抽象されるのでしょうか。犬が抽象される、山が抽象される、森が抽象される、街が抽象される、女性が抽象される、というのではありません。対象の特徴が抽出されるのは絵では当たり前で元々絵画は具体的な対象から要素を抽出して特徴を捉えて描くのが絵です。抽象絵画で抽象されるのはモチーフとなった対象ではなく「絵画」が抽象されるのです。なにが絵画かを要約し具象を用いずに表現したものが抽象絵画です。絵画とは二次元平面における三次元の幻影です。それは遠近感,前後関係、空間の広がり、光や影、風や空気感、運動や動作、ムーブマンなどを伝える二次元の表現です。二次元の画面に存在を感じる、物体の影や光を感じる、奥行きや運動を感じるならば、それが人為的に造られたものならば絵画作品と言えるのでしょう。非形象の要素には色彩やフォルムやタッチや幾何形体や構図や配置や質感などがあります。登場人物や街など具体的な事物に即して語られるのではなく、具体物を示さず、非形象の要素によって絵画を作り出そうとするのが抽象絵画です。勝手に描いた丸や三角、しみや線が抽象絵画となるには二次元の画面から三次元の幻影が立ち上ってきて初めて「絵画」として成立します。それまでは模様であり、しみであり、点であり、線であるに留まります。抽象絵画とは要約された絵画です。

抽象と絵画

抽象絵画は具体的な対象を忠実には描かないがゆえに、本物そっくりが絵だという先入観から解放されて、対象性のない絵画を絵画として鑑賞する絵画へと向かいます。対象の再現性には価値をおかず、もっぱら描かれた色彩や描かれた形態に面白さや美しさを感じ始めたのを契機として抽象画を鑑賞できる感性の地平が生まれます。印象派の時代以降、色や構図やアクションを直接に鑑賞できる芸術観が芸術全般で広まりました。創作舞踏や創作バレーなどのパフォーミング・アーツを鑑賞するように絵画をも鑑賞する事ができるようになったのです。しかし、色がついていれば何でも抽象画の絵画だとはなりません。ただのペンキの塀もあれば標識で区分けされる道路や表示版もあります。非具象の抽象絵画がどこで絵画となり、どこで非絵画となるのでしょうか。模様やデザインは絵画なのでしょうか。絵画に模様を取り入れることはできます。しかし、それは絵の具で塗られた色面と同じです。絵の具やペンが画材であるように、模様も画材なのです。画材を駆使して絵画を創るその絵画とは何かの問題です。模様で絵画を描くことも、デザインで絵画を創る事もできます。二次元の素材を三次元の幻影として組織するのが絵画です。

ポロックの価値

ポロックが成し遂げたゼロ絵画は絵画ではないものです。絵画ではありませんが、絵画のカテゴリー内での問題です。数学でゼロは数量ではありませんが、重要な数の問題です。ゼロが数の対局にある概念で、数の概念が前提としてなければ数がないという概念も成立しません。数がなにもないことを数として考えるのがゼロです。政治の問題で政治がなにも行わないようにすることがアナーキズムで、これも極端な政治思想で、政治の範囲のゼロ問題です。各ジャンルごとにゼロの問題がありうると思います。「ゼロ絵画」という言葉は私の造語です。すでに「反芸術」という言葉がありますが、既存の芸術作品に用いられなかった素材で表現する作品を意味し、ポロックの場合とは異なります。「ゼロ絵画」とは絵画とは違う方向に絵画の素材を用いた制作を指します。抽象絵画は具象物を示さずに絵画を作り出そうとします。「ゼロ絵画」も抽象絵画の手法を借りて、その地平で更に、非形象の抽象絵画の手法をとりゼロの絵画を作ろうとします。本来の抽象絵画とゼロ絵画は抽象絵画の抽象的手法であってもその中では絵画性で満たされたものと絵画性を拒否したもので対立関係にあります。ゼロ絵画は抽象絵画が導き出した絵画条件の理論的な反転です。

ゼロの絵画

ポロックの絵画を「ゼロ絵画」として鑑賞してみると「絵画とはなにか」が解ります。ポロックの絵には画面以外にフォルムがありません。形がないのです。形がないので対比する対象もありませんので、前後関係も大小関係も明るい暗いの関係もありませんから光も影もありません。更に人が筆を使って直接描いた痕もほとんどありません。アトリエに吊した絵の具の缶を揺らし、滴り落ちた絵の具が画面を均一に覆っています。それがポロックの絵です。ポロックは絵にはフォルムが不可欠だと考えるからフォルムを消します。また彼は絵には強弱やアクセントが必要だと考えるから画面をできうる限り均一にします。画面のどこにも影を置きません。それから、自分の手で描くことを拒否して、自動的な画面を絵の具が覆うことを考えます。これでポロックは「絵画とはなにか」を定義したことになります。絵画作品で絵画を定義したのです。

偶然の発見

ポロックが失敗するのは彼には「ゼロの発見」そのことへの自覚がなかった点です。彼は普通に抽象絵画を描いて評価されていると思っていました。彼はピカソに憧れていましたが、ピカソは現代絵画を開拓した巨人ですが、具象にこだわり、具象絵画の変革者でした。ポロックの論理は抽象絵画を前提に成立しますが具象絵画にはそのままでは当てはまりません。具象絵画は具象絵画でゼロへの探求をします。その中からシュールレアリズムやキュビズムが現れます。それは具象ならではの事情で抽象絵画の理論的な探求には使えません。絵画は元々具象ですから、絵画の定義を抽象が十分に具現することはできませんが、数学のように現実を数のような観念的な概念に置き換えて、理論を伸展させることは可能でしょう。ポロック自身が理解していたかどうかにかかわらず、ポロックから導かれる結論としては具象、抽象にかかわらず「絵画は多様な要素からなる三次元の幻影を二次元に表したもの」となるでしょう。



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